働き方変革プロジェクト

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つくる

パタゴニア日本支社
エグゼクティブ・マーケティング・ディレクター 

藤倉克己さん

ランチタイムはサーフィンへ。
オフィスの中心は
カフェテリアと託児所

GoogleなどのIT企業に先駆けて、
80年代の頃から楽しく働ける社風で知られる
パタゴニア。

GoogleなどのIT企業に先駆けて、80年代の頃から楽しく働ける社風で知られるパタゴニア。カリフォルニア州ベンチュラにある約400人が勤務する本社では、創業者イヴォン・シュイナードのベストセラー「社員をサーフィンに行かせよう」のタイトル通りに、社員が毎日サーフィンやジョギング、クライミングに出かけているという。88年にベンチュラ本社に入社して以降、本社と日本支社を行き来する藤倉克己さん(エグゼクティブ・マーケティング・ディレクター)が語る、多様性を尊重するパタゴニアの風土と文化には、楽しく働き結果を残すためのヒントが数多く詰まっていた。

ランチタイムはサーフィンへ。
オフィスの中心はカフェテリアと託児所

― パタゴニアといえば「社員をサーフィンに行かせよう」で有名ですが、本当に仕事中にサーフィンに行くのですか?

私が1988年1月にベンチュラの本社に入社した時には、すでにそういう風土でしたね。自己管理は社員自身に任されているんです。ランチタイムは11時半から13時半なのですが、それに合わせて各自その日の仕事のスケジュールを組みます。ランチタイムにはオフィスから見事に人がいなくなり、近くのビーチまでサーフィンに出かけたり、思い思いに過ごします。他にはクライミングや、走る人も多いですね。それとビーチバレー。コートが社内にあるんです。

また、勤務時間は基本的に9時から17時ですが、早朝6時半〜7時頃に出社して15時半〜16時頃に退社する人も少なくありません。アメリカではポジションが高い人ほど、朝が早いんです。18時半に会社で人を見かけることはほぼありませんし、19時にはガードマンが追い出しに来ます。

— お昼休みが2時間もあり、通常の勤務時間よりも早く帰れる会社は、日本ではなかなかありません。パタゴニア本社の皆さんは、効率的に働くためにどのように時間をやりくりしているのでしょうか?

イヴォンには「起床後ある一定の時間が経つと、人間の生産性は下がる」という持論があります。ですから、生産効率の高い時間帯に仕事をすることで、効率化を図っているのかも知れません。

日本のサラリーマンは夜遅くまで残業をしがちですが、残業代がかかる上に生産効率も落ちてしまいますから、会社にとっては負担が大きいですよね。だらだらと残業をすると緩慢な仕事になりますし、意思決定もぼんやりしてきます。例えばこのような状態で会議をしても、無為な時間が過ぎるだけですよね。そういう意味では、最近流行りの“立ったまま会議”には意味があるのかも知れません。

― パタゴニア本社ではどのようなスタイルで会議をされているのでしょうか?

私が入社した時は会議室が少なかったので、よく床で車座になって話し合っていました。初めて来た人には誰が上司かわからない、そんな自由な雰囲気を感じましたね。あるいは寝そべって話すこともあります。このようなリラックスした雰囲気の中にいると、すごく意見が活発に出るんです。

それと、パタゴニア本社はもともと女性社員が多いんです。今では6〜7割が女性で、マネージャーの多くも女性です。誤解を恐れずに言えば、女性の方が話好きが多いかと思いますが、ブレストでは屈託なく話したほうがアイデアが出てきますからね。

— 女性が多いのはどうしてでしょうか?

もともとは、クライマーやサーファーの男性社員が多かったのですが、自分たちの奥さんやガールフレンド、クライマー仲間・サーファー仲間などを一緒にここで働いてみないかと誘っていった結果、女性の割合が増えていったそうです。当時のパタゴニア本社では、高学歴の人やMBAを持っている人は少なく、入社ハードルがすごく低かったんです。

30~40年前のカリフォルニアはリベラルで、ウーマンリブという考え方が尊重されていました。社内に託児所があるのですが、そこには生後6週間から幼稚園までの子供が入れます。本社の社員400人近くに対して、100人くらいの子どもがいるんです。

朝、社員たちは赤ちゃんと一緒に出社して託児所に預けます。赤ちゃんが母乳が欲しいと泣くと、いつ何時でもオフィスに電話がかかってきて、どんな重要な会議でもぬけ出すことができます。いい制度だなあと思いますね。オフィスで赤ちゃんに母乳をあげながら書類を見て仕事をしている女性もいますよ。

― いつでも誰かが休みをとってアウトドアや旅行に行けるように、例えば3人でできるプロジェクトを4人で回すなど、人員構成に余裕を持たせているそうですね。日本の会社なら「人件費削減!」といわれそうですが、そうしないのはどうしてでしょうか。

チーム全員が仕事内容を理解していますので、1人が休暇をとっても残りの3人で仕事を回していけるんです。実はそういうやり方をすると、チームワークがすごくよくなって、生産性が上がるんです。

それに、そもそも会社自体がそういうスタイルでスタートしましたから、あえて変えてないという部分もあります。経費削減は、ほかでやればいいんです。私たちは、会社そのものがファミリーという考え方です。人を大切にしているんですね。

― オフィス内で一番、人が集まる場所はどこですか?

本社のカフェテリアはみんなが一番好きな場所です。誰もが毎日通る入口の真横にあり、その隣が託児所。生活の中心ですね。そこを通らないとオフィスに行けないようになっています。朝はそこで共働きの夫婦が朝食をとっていたり、朝早く仕事をする人たちが自分でトーストを焼いたりしています。ちょっとした会議もカフェテリアでしますね。

メニューは日替わりのメニュー2つくらいとサラダバー。アメリカ人は家では肉を食べることが多いので、お昼くらいは赤い肉を食べないほうがいいという考えから、サラダバーが用意されているんです。また、サラダバーには毎日、「今日のオーガニック度 97%」といったような表示が掲げられ、素材にとてもこだわっています。こんなに野菜がうまいのかと思うくらい、美味しいですよ。ブロッコリーを生で食べたことあります? このサラダバーのブロッコリーは、生でもとっても美味しいんですよ。

会社は、家族の大きい版というのがイヴォンの思い。考えてみると、家族で生活をしていて一番よく足を運ぶのは台所ですよね。お母さんのお手伝いをするとか、ビールをとりにいくとか。ですから、入口の真横に台所(=つまりカフェテリア)があるこのオフィスの配置は、とても合理的なんです。

― 創業者のイヴォンさんご自身もサーファーだそうですが、社員にもアウトドアスポーツをされる方は多いのでしょうか?

本社の社員約400人のうち、サーフィンをしている人は7~80人くらいでしょうか。ただし本気でサーフィンをしたくてしたくてしょうがない人は、そのうちの5人くらい。でも、ほかの人たちはその5人に合わせて仕事をするんです。そうしないとサーフィンをしたくてしょうがない人たちが、会社の中で生きづらくなるでしょう。アスリートとしてのレベルは、トップの人たちに合わせるというのが、基本的な考え方です。

サーフィン以外にもアウトドアスポーツをしている人は多いですが、アウトドア経験のない社員もたくさんいます。同じ職場で異なる境遇や考え方の人たちがいるということです。要はダイバーシティなんです。

― アスリートと女性を尊重する風土はどのように培われたのでしょうか?

「アスリート」と「女性」というのは一番大きな要素で、空気のように根付いています。

みんな考え方がすごく丸いんですね。僕はそれを「クリスタルボール」と呼んでいるんですが、磨いたりぶつかったり、いろいろしていると石でも丸くなっていきますよね。それと同じように、トップアスリートや女性に合わせて仕事をしていくと、どんどん角が取れて丸くなっていくんですよね。

サーフィンをしたい、家族のために早く帰りたい……そういった大切な目的があると、だらだら仕事をしている隙はないんです。アスリートの世界では、中途半端な気持ちで臨めば生死に関わる場面すらあります。だからこそ、普段からはっきりと意見を言いますし、ものごとを突き詰め自分も含めて納得できるように話します。そうして全員の意見を聞いて共通項を見出そうとすると、だんだん磨かれて水晶玉のようになっていきます。

― 社員の裁量に任せる自由な風土でありながら、成果にちゃんとつなげるための特別な仕組みがあるのでしょうか?

仕組みや制度は基本的に社員が決めればいいと会社は考えています。もともとアメリカでは自分たちがルールを決めるという教育を受けてきているので、そんなに難しいことではありません。

トップダウンが好きじゃない会社なんです。となると自分たちでルールを決めなければならない。経営陣は、例えば「予算はこれだけ」「時間はこれだけ」と最低限の情報を与えて、その中でどう達成するか、どう決めるかは社員に委ねるというやり方です。信頼の上でそうなっていることがわかっているので、みんな頑張ります。でも、ひとりひとりに責任があり、しっかり考える必要がありますよ。

― どのようなチームで仕事を進めているのでしょうか?

チームはリーダー、アスリート、マーケティング担当、パタンナーなどで構成されています。マーケティング担当はアスリートが兼ねることも多いですね。チームにアスリートの社員がいることは重要です。「こういう人が北海道に何人いる」などといった生の情報がすぐに出てきますから。それにアスリートとしてのニーズが自分の中から出てくるので、信じられますよね。昨日氷の間に落ちかけた人が、今日会社に来て一緒に仕事をしているんですから(笑)

― 藤倉さんは88年の日本支社設立時から、本社と日本支社の両方に関わられています。日本支社にも、本社の風土や文化が根付いているのでしょうか?

正直、まだ根付いていないこともたくさんありますね。日本支社には社員が約500人いるんですが、その中で本社を経験しよく知っているのは僕しかいません。組織のジレンマと時間のジレンマ、そして文化的なジレンマがあります。

日本支社は昨年横浜の東戸塚に移転しましたが、当初は鎌倉にありました。ベンチュラの本社のように海が近くてサーフィンができるところを探して鎌倉にしましたが、僕自身そこまで鎌倉のことを知っていたわけではありません。

鎌倉にオフィスがあったときも、海へ行っていた社員がそこまで多かったわけではありません。アメリカ本社に比べると、日本支社にはアスリートが少ない上に、日本人のビジネス体質のようなものはやはりあります。

― 今後、どのように問題を克服して日本支社をより良くしていかれるのでしょうか?

まずは物理的なところから変えていければと思っています。オフィスにカフェテリアと託児所をつくる。それをひとまずゴールにしています。また、日本支社は今年1月から、19時にはオフィスを閉め、社員はそれまでに仕事を終わらせ完全に退社するようにしています。家族やプライベートな時間を大切にできますから、いい取り組みですよね。

― パタゴニア本社の風土や文化を支えているものはなんでしょうか?

イヴォンの存在は大きいですね。イヴォン=パタゴニアと見る人も多いです。彼には正しいカリスマ性があり、その点で私たちは幸運でした。彼は高校までしか出ていませんが、すごくパワフルでビジョンを具現化できる力があります。

それに、イヴォンは「改革」という言葉が好きなんです。本が好きで様々な文化にたくさん親しんでいます。彼が好むのは、変化よりも改革。自由を提示できる会社ですね。その大前提に、信頼関係があります。だからこそ自由の鍵を社員に渡していますし、その代わりに社員も自己管理をきちんとしています。

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